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01. 空いた座席 安物のシャープペンシルが、カチカチと虚しい音を立てる。 ほんの五ミリ程残った芯は、紙の上を滑らせようとする度、するすると奥へ引っ込んでいった。 元より何問埋められるか知れないプリントは、いっそ潔いほど真っ白なままだ。所々に残された引っ掻き傷を、担当教師は果たして何と見るか―――。 手を上げて「芯が切れた」と言うことすら億劫で、城之内は役に立たない筆記具をコロリと机の上に転がした。 良い天気だ。 試験中の静まり返った教室には、穏やかな春の陽が燦々と降り注いでいる。 小さく欠伸を漏らしながら頬杖を付くと、ふいと斜め前の空席が目に入った。 席の主が忘れていったのだろうか。引き出し部分の空洞には、如何にも高級そうな黒いペンが一本、剥き出しの状態で放り込まれている。 (あーぁ、無駄に高いんだろーに、掃除時間になったら落ちるぞ、アレ…) この二週間良く無事だったな、と半眼した城之内はしかし、その席の主の不在期間を無意識に把握していた自分に愕然とする。 そう、今日できっかり二週間だ。あの男の背中を見なくなって。 気にもかけていなかった筈のことが、まるで指折り数えていたかのように正確に解る。それが何を意味するのか……深く考える勇気は、まだなかった。 眉根を寄せ、口をへの字に捻じ曲げて、城之内は空いたその席を視界に入れぬよう静かに目を伏せる。 チカチカと瞼に透ける春の陽が、風にはためく白いコートを思い起こさせた。 end. |