17回目の誕生日。

そして届く、17個目の真紅の花束。










落日色の恋人










ぴんぽんぴんぽんぴんぽんぴんぽん

平日、いつもならば新聞配達のある日、でも、今日は前日から体調を崩していたオレは、申し訳ないと思いつつ、一日の休暇を貰っていた。

「〜〜〜〜〜〜〜っ」

毛布に包まりながら、その音を聞き続けて果たして何分になるだろうか。

ぴんぽんぴんぽんぴんぽんぴんぽん…

「っだ〜!!!うっせ〜な!!!何なんだヨ朝っぱらから!!!」

暖房器具も無い寒い部屋の中で、布団に包まって震えるように寝ていたオレを、古びた呼び鈴が否応なしに叩き起こしてくれたのは、おそらく優に10分前。
体のだるさに動く気すら起きず、どうせ暫くすれば鳴り止むだろうと思ってずっとシカトしていたけれど、その音は一向に止む気配を見せない。
枕元の時計を見れば時刻はまだ早朝の5時16分。

「もしかしてコレ、5時からずっと鳴ってやがんのかよ?」

早朝5時と言えば、いつもならばバイトに出かけている時間だけれど、体調不良の今のオレには、とてつもなく早い時間にさえ思えた。
こんな時間にピンポンピンポンとけたたましく鳴り続ける呼び鈴に、風邪以外の頭痛を覚えながら、遂に耐え切れなくなって、毛布一枚体に包んだまま、オレは布団からのそりと起きだした。
その間も、錆びた呼び鈴の音は鳴り止まない。
このままじゃ近所のおばちゃんたちから苦情の嵐が来ちまうぜ。

「ちくしょ〜…マジでうぜぇ…」

ガタガタと震えながらも、無視できないほどの音量で鳴り響くソレを止めるべく、緩慢な動きで玄関へと向かう。

「ったく、誰だ、こんな時間に!とんでもねぇ嫌がらせだぜ…!」

忌々しげに舌打ちしつつ、玄関にたどり着いたオレは乱暴にドアを開け放った。

「うっせーな!いい加減にしねえとぶっ飛ばすぞテメェ!」

言葉とともに呼び鈴は止み、ドアの向こう側の相手を睨みつけようとしたオレは、そのまま玄関先で固まった。

ついさっき、オレがドアを開け放つその瞬間まで、呼び鈴はけたたましくなっていたというのに―――

オレがドアを開け放ったその時には、既にソコには誰の姿も見当たらなかったのだ。

「………っ」

オレは軽くホラー映画のワンシーンなんかを思い出しちまって、その場で身震いをした。
古びた廊下に首だけ出して、あたりの様子を覗うけれど、つい今しがたまで誰かがいた筈なのに、果たして本当にそんな存在がいたのだろうかと思うほど、あたりは静けさを取り戻していた。

「なんだってンだよ…っ、勘弁してくれよな、おい」

情けなくもドアを開け放った時の勢いなんて、目の前の不思議体験によってすっかり掻き消えちまったオレは、毛布に包まりながら頭を抱えた。

「…?」

その時に気付く。
一体いつからソコに置かれていたのか、オレの足元数十センチ向こうに置かれたソレはソレは豪華な―――

真紅色のバラの花束に。




++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++






「なんなんだよ、コレ…」

明らかにオレんち宛と思われるその真っ赤な花束を、気味悪く思いつつも部屋の中に運び、ばさりとテーブルに投げた。
その拍子に、真紅色の花びらが、はらはらと数枚ちぎれ、テーブルの下に音も無く舞い落ちる。
バラの花束は、見事としか言いようの無いくらいに真っ赤で、大きな花びらが舞い落ちた床は、まるで血が滴っているかのようだった。

「気味悪ィぜ、まったく…」

寒さのせいだけでない震えを再び味わいながら、花束に手を伸ばし、豪華なその束の中から覗く真っ白な封筒を取り出した。
廊下に知らぬ振りしておいて置けなかったのは、コレのせいだった。

『―――城之内克也―――』

真っ白な封筒の表面には、黒い万年筆か何かで、はっきりとそう書かれていたからだ。
こんなモン貰うような実に覚えは、はっきり言って全く無い。

けれど、そのままゴミ箱に捨てる前に、ちらっと覗いておきたくなったんだ。
人間の好奇心ほど、愚かな物は無いと思いつつ。

封筒の裏には、勿論差出人の名前など無く、ただ、小さなバラをかたどったシールで、軽く封がしてあるだけだった。
そのシールをべり、と剥がし、中の手紙を慎重な面持ちで取り出す。

「カッターとか入ってたらヤだな…」

そんな悠長な言葉を吐き出しつつ、かさりと音を立てて2つ折りにされた便箋を開いた。

「…………………」

文面には、封筒にもあった几帳面そうな達筆でただ一言。

『親愛なる恋人の生誕を祝って―――』

そう書かれていた。









++++++++++ next ++++++++++