サファイヤアンドロイドの夢

 夢を見た、と言ったら酷く驚いた顔をして、どんな夢だった、と尋ねてきた。
 貴様が出てきた、と言ったら益々驚いた顔をして、それから少し笑って、「そっか」と小さな声を返してきた。
 機械が夢を見る筈はない。そんなことはどちらにも解っている。だがそれでも、眠りを必要としない夜の手慰みにその日の『記録』を探ってみれば、出てくるのは彼のことばかりを考えて過ごした不自然な自分の思考ばかりで。
「テメェは、どんどん本物の人間みたいになってくよな」
 それを嬉しがっているのか憂いているのか今一つ掴みかねる表情で、城之内は曖昧に口の端を持ち上げた。
「でもそれでいいんだろうな。人間だって周りの連中のすることを見ながら育っていくわけだろ。テメェの感情プログラムとやらもそれと変わんねェし、人間とロボットの差なんてそのうちなくなってくんじゃねェの」
 これが並みの企業なら遠い話だが、他でもないKCなら―――海馬瀬人なら、もしかしたらやってのけるかもしれない。そう言って目を細める城之内の顔を、カイバはまじまじと見つめた。
 こうして遠慮の欠片もなく、観察するかのような視線を向けてしまうのは、彼の癖のようなものだ。
「俺が育っているのだとすれば、原因はまず間違いなく貴様だろうな」
 至極真面目な顔で告げてやると、飴色の瞳がぱちりと一つ瞬きをする。
「仕事をしている以外の時は、貴様のことしか考えられん。そしてそれをどうにかしようとすら思わん」
 海馬瀬人としての自我がそうさせるのだろうが、…とは伝えずに、カイバはゆっくりと城之内の頬に手を伸ばす。
「っ、だからそれは女や動物にやることだっつっただろ!」
「学習済みだ。だが、触れたいという感情が『育っている』のだから仕方あるまい?」
 それこそ人間の感情らしく「理由」というものが見当たらないのだと口にすれば、城之内は何故だかくしゃりと顔を歪め、視線を僅かに下向けて何事か小さく呟いたようだった。
 無論、カイバの優れた聴覚はその音を容易く拾い上げている。だがそれを指摘するには、自分の覚悟も、そして城之内の覚悟も足りていなかった。
 ―――目ェ覚ませよ、俺。
 苦りきった呟きは、彼自身の想いを戒める為のものだと知っている。
 海馬瀬人を模したアンドロイドに要らぬ感情を教え込んで、口にさせてどうするんだと、要らぬことを悩んでいるのだろう。海馬瀬人へと向かう彼の様々な感情が、機械である自分の想いを決定付けたのだと思っているに違いない。それこそ目を覚ませと言ってやりたかった。
 自分には自我が二つあると、最初に言ってあった筈だ。だが今の彼に「自分の意思で」惹かれたのだと言っても、まるで信じはしないだろう。
 そうやって目の前にいる自分や海馬瀬人の感情から、何より彼自身の感情から目を逸らし続けているから埒が明かないのだ。
「抱いてやろうか、凡骨。俺にその手の機能はないが、なに、突っ込むだけならその辺りのもので事足りる」
 もう何度目になるかわからない言葉を薄笑いと共に投げてやると、城之内はひくりと頬を引き攣らせながら「遠慮しとく…」と掠れ声で返してきた。何言ってんだテメェふざけたこと抜かしてんじゃねェ野郎同士でンな気色の悪い真似出来っか、と必要以上にむきになって墓穴を掘っていた前回に比べれば、少しは賢い反応の仕方だ。
 迷いがあるからこそ逆に強く否定してしまう。本物の海馬瀬人に言われた台詞ならどうだろうと考えて狼狽えてしまう。…そんな簡単な事実を、いい加減認めてはくれないだろうか。
 カイバは深々と溜息を吐いた。いつまでもこんな風に否定し続けるならば、そのうち本気で手を出してしまいそうだ。
 主といいこの男といい、アンドロイドである自分の気持ちがよもや「本物」だなどとは考えもしないのだろう。
 何も知らずに呑気なものだと、カイバは恨めしいようなもどかしいような複雑な気持ちで鈍感な想い人の顔を見つめ続けた。







+ END +




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合同誌「海馬瀬人急変化」で書いた「サイバー海馬」話の後日談です。
サイバー×城は突き詰めれば悲恋にしかならないのでどうしようかとかなり悩みました。元の設定自体が切ないんですよサイバー。…ちょっとギャグにしか思えないような部分もあるけども。
サイバーネタは色々と浮かびまくり&頂きまくりなので、いつか個人誌でも出せたらいいなぁと夢見ております。
初期化したら緑になるネタとか!サイバーの食べ物は「愛」なネタとか…!

因みにこのSSのタイトルは、某ヴィジュアル系バンドの曲名から頂きました。
三人になっても応援してます、PE●ICILLIN。

■ 2007.11.03 / 2007.11.16up ■