Return to Summer1

「海に行くぞ」
「はぁ?」
 突然の物言いに、城之内は読んでいた雑誌からふいと顔を上げた。
 行儀悪くソファに俯せ、足をパタパタと揺らしながら口の端をぺろりと舐める。
「何だよ、薮から棒に」
 飲み干したばかりのホットココアの味が甘ったるく舌先を霞める。
「今冬だぜ、フ・ユ!寒くて外にも出たくねーってのに何言ってやがる」
「フン、『冬ではない』所へ行くのだ。文句はあるまい?」
 小馬鹿にしたような笑みにカチンとくるのはいつものことで。
「だからその人を見下すよーな目はやめろっつってんだろ!」
 突っ掛かれば軽く片手でいなされてしまった。
「わかったからさっさと支度をしろ。昼には出るぞ」
「はぁっ!?」
「準備が出来んようなら容赦無く置いていくからな」
「〜〜〜〜っ!!」
 ワハハと高笑う海馬を背に、城之内は慌ててバイト先に連絡を入れ始める。
 何だかんだ言っても、嬉しいのだ。
 緩んだ口元を悟られまいと、城之内は不自然に口唇を引き結んだ。





「すっげ…!」
 眩い太陽、白い砂浜、濃い色を落とす椰子の木陰。
 ブラウン菅越しにしか見たことのない風景が、今目の前に広がっている。
 常夏の島、ハワイ。
 定番のアロハシャツを着せられた城之内は、歓迎のレイを胸に踊らせながら嬉しそうに海馬を振り返った。
「な、ここホントに俺たちだけで使っていいのか!?」
 キラキラと目を輝かせる様は鼻先に散歩綱を垂らされた子犬のようだ。
 期待いっぱいの眼差しに「当然だ」と頷いてやれば、子犬は「よっしゃー!」と満面の笑みでガッツポーズを決めた。
 はしゃぐ姿に頬が緩むのは仕方の無いことだろう。
 観光客の喧騒から少し離れたプライベートビーチ。ここはまさにこの顔が見たくて買い占めたものなのだから。
 海馬はサングラスの奥で満足げに目を細め、潮風に揺れる蜜色の髪をくしゃりと撫でた。
「うっ…、照れるからそーゆーのすんなよ」
「フン、飼い犬の頭を撫でて何が悪い」
 ニヤリと笑んだ口元に、普段のようには言い返せない。
「う〜〜…っっ!」
 城之内と同じくアロハシャツを身に纏った海馬は、笑い飛ばしてやろうと思っていたのに恐ろしいほどそれが似合っているのだ。
 思わず見惚れてしまいそうな自分を叱咤して、城之内はぶんぶんと頭を振った。
 青地に赤のハイビスカスというありふれた柄にも関わらず、過美なケバケバしさを全く感じさせない。
 花の真紅をぬうように駆け昇る白龍の色合いが、スラリと伸びた足を包む白いスラックスと良く合っていた。
 対する城之内はと言うと、黄色地に椰子のプリント、赤いハイビスカス、駆け昇る黒竜が海馬の白龍とは対照的だ。
 ……今にも「オイ、兄ちゃん金出しな」などと言い出しそうな妙な迫力が漂っている。
「ってか何だよそのサングラス!一人で格好つけてんじゃねーよ!」
 そう言って奪ったサングラスをかける姿は、益々。
「似合いすぎて洒落にならんわ!返せ馬鹿者!!」
「うわっ!何でいきなりキレてんだよ!?」
 戸惑う声をものともせず、海馬は奪還したサングラスをボキリボキリと握り潰した。
 調子に乗ってアロハなど着せるのではなかった。これではどう見てもたちの悪いチンピラだ。
 後悔先に立たずとは良く言ったもので、さぞ愛らしかろうと着せてみればこの有り様。
 しかし意外にも雰囲気重視で「郷に入りては郷に従え」精神を持ち合わせている城之内が、今更ハワイの定番を脱ぎ捨ててくれるとは到底思えず。
 こうなったら早々に海に入り、濡れた衣服を着替えさせるしかない。
 海馬は服を剥ぐ瞬間の喜悦に思いを巡らせ、決意の拳を握り締めた。







to be continued...




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携帯サイトでの2000hitリク、ツモトマチさまより『夏を舞台にした海×城←王でギャグ』第1話です。
ズルズルと伸びていっております…。着地点が見えない…!

■ 2002.12.05 ■