仕事を前倒して前倒して、漸く取れた纏まった休み。
 肌を刺す冬の空気から抜け出して、澄み渡った青空の下、打ち寄せるさざ波に耳を傾けるのもまた一興かと――――

 そう思い、連れ出してやったというのに。


「行くぜ!城之内くん!!」
「っしゃー!どっからでもかかって来やがれ!!」
「お兄ちゃん頑張って!」
「手ぇ抜くんじゃねーぞ遊戯ー!」


 ………何故、こうなるのだろう。
 海馬は人知れず深い深い溜息を吐いた。

Return to Summer2

「このサーブで決めるぜ!」
「ヘッ、俺のブロックを崩せるもんか!」
 海の青と雲の白の対比が眩しい浜辺では、「1on1ビーチバレー」たる変則マッチが繰り広げられていた。
 解放感溢れる景観が災いして無駄に広く取ってしまったコートの中、ボールを打つも拾うも一人で行わなければならないという過酷なルール。
 生き生きと心底楽しそうな笑みを浮かべる城之内の姿を見ているのは悪い気分ではない。
 …ない、がしかし。

 第一試合 『城之内克也 vs 武藤遊戯』


 武 藤 遊 戯


「ごめんよ兄サマ…。巧く撒いたと思ったのに、あいつらいつの間にかセスナに乗ってやがったんだ!」
 しゅんと俯き語るモクバの頭に手を置き、気にするな、とは言ったものの。
(あの人数が潜んでいて気付かん筈がなかろう、モクバ…!)
 ひっそりと笑みを浮かべる弟に、海馬は激しく脱力していた。
 どうやら仕事を詰め込みすぎて寝食を疎かにしたことを根に持っているらしい。

「ブラック・ファラオアターック!!」
「甘いぜ!アタック落とし!」
「なっ…」

 ピッ、と攻撃を弾いた城之内の指先がボールに微妙な回転を掛け、際どい角度で遊戯のコートへと落とし込む。
 オーバーアクションでの攻撃しか仕掛けて来ないものと完全に油断していた。
「くっ…、やるな!城之内くん!」
「おぅ!お前もな、遊戯!」
「いや…、俺的にはあの技名を恥ずかしげもなく叫べる遊戯の方が色々とスゴイと思うんだけどな…」
 遠い目をする御伽の肩を、本田が生温い笑顔でぽむ、と叩く。
「諦めようぜ御伽。俺たち凡人にゃ理解出来ねぇ世界があるんだ…」
「あはは!摩訶不思議カットな髪型の君には言われたくないと思うけどね!」
「ば、獏良くん…」
 杏子の溜息に被さるように、静香の声援が城之内へと飛ぶ。
「マッチポイントよ!お兄ちゃん!」
「おぅ!俺を見てろ静香!」
 眩いばかりの笑みを振り撒くその姿。あれを独り占めしたくて、半ば強引に連れてきたというのに―――。
 海馬は苛立ちを隠すことなくギン☆と試合中の遊戯を睨みつけた。
 そもそも何故初めから「あちら」が出ているのか?時折城之内に向けられる熱い視線…忌々しすぎて目眩いがしそうだ。
「っしゃー!これで終わりだぜ遊戯ぃ!!」
 意気揚々と宣言した城之内に、遊戯が不適な笑みを返す。
「君の想い、受け止めてみせるぜ…!」
「待て待てィ遊戯ー!!それは何か違うだろうが!!?」
 思わず目を剥いた海馬の声もなんのその、自ら高めのトスを上げた城之内はそれを追うように大きく跳躍し…

「行くぜ…ミラクル城之内スペシャルボンバーアターーーック!!!」
「なっ、その可愛い『ミラクル』はどこに掛かるんだ城之内く…おぶぅっ!!!」
「あぁっ!?遊戯ぃー!!」

 無駄なことに気を取られた遊戯は鼻から赤い何かを撒き散らしながら、白い砂浜へと身を沈めた。
「君の想い…この口唇でしっかりと受け止めたぜ……ガクリ」
「遊戯!遊戯ー!目を開けてくれよ!!」
「……王子様はお姫様のキスで目を覚ますんだぜ城之内くん……(ボソリ)」
「え?」
「そのまま死ねぇぇぇい!!」
 突如として放たれた海馬の「靴の踵deスクリューキック」により、遊戯は敢えなく沈黙した。
「フン…敗者は黙して引いていろ!」
「な、何てことしやがんだよ海馬ァ!遊戯の顔渦巻いてるぞ!?…怖くて直視出来ねェよ…」
「あは!遊戯くんってばひたすら報われないんだね!」
「言うな獏良…」
「洒落にならなすぎて哀れに思えてくるね…」
 常識人二人はやるせない溜息と共に、しめやかに友の冥福を祈った。







to be continued...




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御伽は原作仕様なので一人称は「俺」で、皆のことも呼び捨てです。
今読むとすごい違和感だ…。

■ 2002.12.13 ■