- 社長BD企画 2日目 -
10/21 23:50
『もうすぐ兄サマの誕生日なんだ』
街で偶然遭遇した少年は、黒目がちな瞳をきらきらと輝かせながらそう教えてくれた。
一週間後の十月二十五日。自分たっての願いで、その日は早く帰宅出来るようスケジュールを調整してくれたのだと、彼はさも嬉しそうに語る。
『へぇ、アイツにも誕生日なんてモンがあったのか』
揶揄うような口調でそう返した城之内は、けれど少年が去った後の道で一人ほくそ笑んでいた。
誕生日。相手に何かを贈ることに、これといった理由を必要としない日。
自分からのプレゼントなど胡散臭いとすぐに捨てられてしまうかもしれないが、万に一つの可能性で傍に置いてくれることがあれば、この上なく幸せなことではないだろうか。
考えただけで笑みを抑えきれなくなり、城之内は思わず緩んでしまった口元をさりげなく手で隠した。
彼は、その少年の兄のことが好きだった。
散々自分を馬鹿にしていた男相手に一体何の冗談かと、彼自身初めは困惑したものだ。
だが、どれだけ否定しようともその男を前にすれば気分は高揚し、心臓は煩いほどにどくどくと激しく脈打ち始める。
いつから、と問われても判らない。男が自分に対する呼称を改めた時だったかもしれないし、もう随分と前から惹かれていたのかもしれない。それが好意的な感情なのだと気付くのに時間が掛かっただけで。
本人に告げるつもりなど毛頭なく、叶う想いだと思ったことも一度とてなかったが、あの男が好きだ、と思うだけで、じんわりと胸に温かいものが広がっていくのだ。
それだけで満足だった。決して報われぬ代わりにこれ以上嫌われることもない。安心して、好きでい続けることが出来ると。
「これ、誕生日用に予約することって出来ます?」
「こちらですか?少々ロウソクが差し難いかもしれませんが…」
「あ、プレートだけでいいんで」
「畏まりました。それでは、ご予約の日にちとプレートに入れるお名前を」
バイト先の先輩から聞き出した美味いと評判のケーキ屋で、城之内は些か頬を上気させながら相手の名を告げた。
昨日彼が立てていた計画はこれだ。
あの男の名入りのケーキを予約する。
何とも単純ではあるが、「誕生日を祝う」という目的を一番解りやすく形に出来るような気がした。
きちんとしたケーキは邸でモクバが用意していることだろう。だから、自分からはほんのささやかなもので良い。
どの道あの男には嫌がらせとしか伝わらないのだ。極端な話、コンビニのケーキでも良かったくらいで。
だがそれでは流石に、彼の誕生日を祝いたいという自分の本心からかけ離れすぎてしまう。
「ま、あんなもんだろ」
当日受け取りに行くことになったケーキに思いを馳せ、城之内は昨夜も歩いた道を、昨夜以上の上機嫌でのんびりと歩いた。
明日はプレゼントを選びに行こう。そう思い、楽しげな笑みを浮かべながら。
to be continued...