「ククク…これで厄介な邪魔者が一人消えたな。おい犬、そろそろ二人きりで…」
「おめでとうお兄ちゃん!!」
「ぐはぁっ!!」
「静香!」
妙な角度を取っていた腰に強烈なエルボー。
哀れ海馬も王の待つ彼岸へと旅立った。
Return to Summer3
煌めく波の反射に瞳を眇め、シャツに付いた砂をパンパン、と払い落とす。
見ればハーフパンツから覗く剥き出しの膝にも塩分を含んだ砂が多量に擦り着いていた。道理でヒリヒリするわけだ、と城之内は苦く笑う。
「…?嬉しくないの?お兄ちゃん」
折角遊戯さんに勝てたのに、と不思議そうに見上げてくる妹の視線。綺麗な榛色のそれに軽く笑みを返し、
「あのな、さっきの球、顔面にいっちまっただろ?あれって実は反則で俺の負けになっちまうんだ」
困ったようにそう告げれば、あどけなさを残す顔がくしゃりと悲しげに歪んでしまった。
潮風を孕んで揺れる髪をあやすように優しく撫でてやる。
二人の間に落ちる、椰子の葉の刺々しい影。
「レッドカードで退場みたいなモンだ。仕方ねーよ。ただ、折角お前が応援してくれたのに不甲斐無くてよ…。すまねェ」
「そんな!お兄ちゃん頑張ったもの!私ちゃんと見てたよ。お兄ちゃんのミラクルスペシャルボンバーアタック!」
「静香…!」
「お兄ちゃん…!」
「……………あー、美しい兄妹愛だねー」
半ばヤケのような御伽の台詞に本田はヒクリと頬を引き吊らせる。
「そんなあからさまに白い目で見てやんなよ。まがりなりにもダチなんだからよ…」
感動的且つどこか背徳的な光景に、傍観者たちは大層生温く微笑み合った。
しかしそんな仲間の様子など何処吹く風、シスコン兄とブラコン妹は恐ろしいまでの身内バカっぷりを披露し続けている。
「兄妹でピンクな世界を作り上げるのはどうかと思うわ…」
「兄サマと遊戯、完全に忘れられてるぜぃ…」
眩いばかりのハートの乱舞に、自分たち兄弟も端から見ればあぁなのかと、モクバは思わず人生を憂いた。
瞳輝かす彼らの頭の中には、常夏の島に不似合いな淡い色の花がぽわぽわと咲き乱れているに違いない。
「そんなことより静香!折角ハワイまで来たんだ。遊んで遊んで遊びまくろーぜ!!」
「そうね!お兄ちゃん!!」
「あはは!待てよコイツぅ〜!」
「うふふ、こっちよお兄ちゃ〜ん!」
「
ちょっと待て貴様らァァァァっ!!」
それは彼岸のお散歩と洒落込んでいた海馬を叩き起こすのに十分な光景、そして台詞だった。
轟々と巻き起こった闘いの風が彼の髪についた砂粒を一つ残さず吹き飛ばしていく。
海馬は未だ死の淵を彷徨う王の背をグシャリと踏み付け…
「ギャー!!(ガクリ)」
…革靴の踵でしっかりと止めを刺してから、改めて城之内へと向き直った。アロハの裾が無駄にはためいている。
「貴様ァ!折角邪魔者が消えたかと思えば、今度は幼女なんぞとジャレ合いおって…!!」
「私、幼女じゃありません!」
「いや、つーか遊戯、マジ消えそう…?」
泡を吹く親友をツンツンとつくじりつつ、城之内は海馬の青い双眸をキッと睨みつけた。
「テメェ、何でビーチでまで革靴履いてんだよ!!」
あぁ、ツッコミどころはそこなのね…。
―――この時、傍観者たちの心は一つだった。
「ほんだくん、そろそろホテルにもどらないかい」
「そうだな、おとぎくん」
「まって、わたしも行くわ」
そうして去り行く哀れな常識人たち。
「やかましいわ馬鹿犬が!砂浜でアハハウフフは俺と貴様のメインイベントとして取っておいたというのに…!」
「オレもホテルに戻るよ兄サマ……」
同じく去り行くモクバの背は、いつもにも増して小さく見えた。
to be continued...

■ 2003.01.11 ■